最終更新日 2024年11月9日 by rosska

1984年、私が経営コンサルタントとしてキャリアをスタートさせた時、日本経済は高度成長期の余韻を残しながら、新たな飛躍の時期を迎えようとしていました。

あれから35年。

バブル経済の絶頂期から崩壊、そして「失われた20年」と呼ばれる長期停滞期を経て、平成から令和へと時代は移り変わりました。

この激動の時代に、私は多くの日本企業の変革に携わってきました。

その経験を通じて見えてきたのは、苦境の中でも着実に進化を遂げてきた日本企業の姿です。

本稿では、一経営コンサルタントの視点から、バブル崩壊後の日本企業の軌跡を振り返りながら、令和時代における新たな可能性を探っていきたいと思います。

バブル経済崩壊と日本企業の転換点

バブル期の栄光と幻想:1980年代後半の実態

1980年代後半。

「Japan as No.1」という言葉が世界を席巻し、日本企業は世界のビジネスシーンで圧倒的な存在感を示していました。

不動産価格は年々上昇を続け、企業は潤沢な資金を背景に、積極的な設備投資と人材採用を進めていました。

「終身雇用」「年功序列」という日本的経営の特徴は、むしろ強みとして評価され、欧米企業も日本企業の経営手法を学ぼうとしていたのです。

しかし、この時期の私たちコンサルタントの間では、ある種の危機感が共有されていました。

というのも、多くの企業で見られた投資判断には、冷静さを欠いているものが散見されたからです。

例えば、ある製造業大手では、市場調査が不十分なまま、巨額の設備投資を決定。

結果として、その設備の多くが後に余剰となり、大きな負担となってしまいました。

崩壊後の混迷:1990年代における日本企業の苦悩

1991年、バブル経済が崩壊。

株価は急落し、不動産価格も下落の一途をたどりました。

多くの企業が、過剰債務と過剰設備の二重の重荷を背負うことになったのです。

特に印象深いのは、ある商社での出来事です。

バブル期に取得した不動産の含み損が表面化し、創業以来初めての赤字決算に直面。

しかし、この危機を契機に、本業回帰と財務体質の強化を断行し、見事な復活を遂げました。

この事例は、危機をチャンスに変えた好例として、今でも私の胸に刻まれています。

失われた20年:その真の意味を問い直す

「失われた20年」。

この言葉は、1990年代以降の日本経済の長期停滞を表現するものとして定着しました。

確かに、GDPの成長率は低迷し、デフレ経済からの脱却も果たせませんでした。

しかし、この時期を「失われた」と一括りにするのは、必ずしも適切ではないと私は考えています。

なぜなら、この期間こそ、日本企業が過去の成功体験から脱却し、新たな時代に適応するための重要な転換期だったからです。

例えば、製造業では、かつての「大量生産・大量販売」モデルから、「多品種少量生産」への転換が進みました。

また、品質管理や環境配慮など、日本企業が得意としてきた分野では、世界をリードする innovations が生まれています。

私が関わった自動車部品メーカーでは、この時期に徹底的な原価管理と品質向上に取り組み、グローバルサプライヤーとしての地位を確立。

現在では、世界中の自動車メーカーから信頼されるパートナーとなっています。

つまり、この20年間は、日本企業が質的な進化を遂げた時期だったと言えるのです。

グローバル化の波と日本企業の対応

メイド・イン・ジャパンの変容と進化

2000年代に入り、グローバル化の波は一層強まりました。

かつて「メイド・イン・ジャパン」は、高品質と信頼性の代名詞でした。

しかし、新興国企業の台頭により、品質だけでは差別化が難しい時代となってきたのです。

ある電機メーカーでの consulting 経験が、特に印象に残っています。

この企業は、従来の「高品質・高価格」路線から、「適正品質・適正価格」へと戦略を転換。

さらに、ソリューション提供型のビジネスモデルを構築することで、新たな競争優位を確立しました。

このように、日本企業は単なるモノづくりから、価値創造へと軸足を移していったのです。

アジア新興国との競争と共創

アジア新興国の台頭は、日本企業にとって大きな試練となりました。

しかし、より本質的には、新たな可能性を開く契機となったとも言えます。

例えば、私が関わった化学メーカーでは、中国企業との厳しい競争に直面。

しかし、現地企業との協業を通じて、互いの強みを活かした新たなビジネスモデルを構築することに成功しました。

このケースが示唆するのは、競争共創の両立という新しい発想です。

デジタル革命への適応と課題

デジタル革命は、日本企業にとって最も大きな課題の一つとなっています。

特に、2010年代以降の AI や IoT の急速な発展は、既存のビジネスモデルを根本から問い直す契機となりました。

ある製造業大手では、デジタル化への対応の遅れから、グローバル市場でのシェアを大きく落とす事態に。

この経験から、全社を挙げてデジタルトランスフォーメーションに取り組み、見事な復活を遂げています。

しかし、依然として多くの日本企業では、デジタル人材の不足や従来型の組織構造が、変革の足かせとなっています。

平成から令和へ:企業文化の質的転換

終身雇用神話の終焉と新たな人材戦略

平成から令和への移行期。

日本的経営の象徴とされてきた終身雇用制度は、大きな転換点を迎えています。

私が関わった人材戦略の改革プロジェクトでは、次のような興味深い変化が見られました。

項目従来型新しい方向性
採用新卒一括採用中心通年採用・経験者採用の拡大
評価年功序列重視成果・能力主義の導入
キャリア社内異動中心副業・転職を含む多様なキャリアパス

この変化は、単なる人事制度の改革にとどまりません。

働き方に対する価値観そのものの変革を意味しているのです。

コーポレートガバナンス改革の本質

2015年のコーポレートガバナンス・コードの導入は、日本企業の経営に大きな影響を与えました。

しかし、より本質的な変化は、企業統治に対する経営者の意識改革にあります。

ある老舗企業での advisory 業務では、伝統の継承経営の革新という、一見相反する課題に直面。

しかし、社外取締役の積極的な登用と、若手経営層の育成を通じて、両者の調和を図ることに成功しました。

伝統と革新の調和:日本企業の強みの再定義

日本企業の真の強みとは何か。

この問いに対する答えは、平成から令和への移行期に、より明確になってきたように思います。

それは、「長期的視点」と「全体最適」という伝統的価値観を保持しながら、革新を追求する能力です。

例えば、私が関わった製薬会社では、研究開発における長期的投資を維持しつつ、オープンイノベーションを積極的に推進。

その結果、グローバル市場で独自の地位を確立することができました。

このように、伝統革新は、必ずしも対立概念ではありません。

むしろ、両者の調和こそが、令和時代における日本企業の新たな強みとなる可能性を秘めているのです。

経営改革の実践知:現場からの洞察

組織改革の成功事例と失敗からの教訓

35年の consulting 経験を通じて、私は数多くの組織改革に携わってきました。

その中で最も印象的だったのは、ある老舗製造業での経験です。

この企業では、度重なる改革の失敗で社員の士気が著しく低下していました。

しかし、次のような段階的アプローチを採用することで、見事な変革を成し遂げることができました。

段階施策成果
第1段階現場の声を丁寧に聴取信頼関係の構築
第2段階小さな成功体験の積み重ねモチベーションの向上
第3段階全社的な改革プログラムの展開組織文化の実質的な変革

この事例が教えてくれたのは、組織改革の本質は人の心にあるということです。

どれほど緻密な計画を立てても、人々の共感を得られなければ、真の変革は実現しません。

リーダーシップの進化:経営者に求められる新たな資質

令和時代の経営者に求められるリーダーシップとは、どのようなものでしょうか。

私の経験から、以下の3つの資質が特に重要だと考えています。

第一は、多様性を受容する力です。

性別、年齢、国籍を超えた多様な人材が活躍できる環境を作り出すことは、もはや選択肢ではなく、必須要件となっています。

第二は、不確実性と向き合う勇気です。

かつての経営者は、確実性の高い情報に基づいて意思決定を行うことができました。

この点について、リサイクル業界から経営コンサルティングの世界で活躍する若手経営者の天野貴三氏も、不確実性の高い時代における意思決定の重要性を説いています

しかし今日では、不完全な情報の中で、迅速な判断を下さなければならない場面が増えています。

そして第三は、共感を生み出す力です。

デジタル化が進む中で、むしろ人間的な触れ合いの重要性は増しています。

企業文化改革:理論と実践の架け橋

企業文化の改革は、最も困難な課題の一つです。

しかし、私が関わった複数の プロジェクト を通じて、ある共通のパターンが見えてきました。

それは、理念の明確化行動の一貫性の重要性です。

例えば、ある小売チェーンでは、「お客様第一」という理念を掲げながら、実際の評価制度は売上至上主義でした。

この矛盾に気付き、評価制度を顧客満足度重視に改めることで、真の顧客中心主義を実現することができたのです。

令和時代の日本企業が目指すべき方向性

サステナビリティと企業価値の両立

サステナビリティへの取り組みは、もはや企業の社会的責任の範疇を超えています。

それは、企業価値の源泉そのものとなりつつあるのです。

私が最近関わった化学メーカーでは、環境負荷の低減を経営の中核に据え、新たなビジネスモデルを構築。

その結果、サステナビリティと収益性の両立に成功しました。

このように、社会課題の解決企業価値の向上は、もはや二者択一ではありません。

デジタルトランスフォーメーションの本質的意義

デジタルトランスフォーメーションは、単なる IT 化ではありません。

それは、企業の存在意義を問い直す機会なのです。

ある機械メーカーでは、IoT 技術の導入を契機に、製品販売から保守サービスまでを含む総合的なソリューション提供へとビジネスモデルを転換。

この過程で重要だったのは、テクノロジーの活用以上に、顧客価値の再定義だったのです。

グローバル競争下での独自性の確立

グローバル化が進む中で、日本企業はどのように独自性を確立していけばよいのでしょうか。

私は、その答えは日本的価値観の現代的解釈にあると考えています。

例えば、「三方よし」の精神は、現代の SDGs の考え方と驚くほど親和性が高いものです。

また、「改善」の文化は、デジタル時代における agile 開発の本質と重なる部分が多々あります。

まとめ

35年にわたる経営コンサルタントとしての経験を振り返ると、日本企業は確かに多くの困難に直面してきました。

しかし、その過程で着実な進化を遂げてきたことも、また事実です。

令和時代の日本企業に求められるのは、次の3つの能力ではないでしょうか。

  • 伝統的価値観を現代に活かす知恵
  • 変化を恐れない勇気
  • グローバルな視野と地域への深い理解

これらを備えた企業こそが、新時代を切り拓いていけるはずです。

最後に、若い世代の経営者やビジネスパーソンの皆さんへ。

私たちの世代が経験した失敗と成功は、必ずや皆さんの道標となるはずです。

しかし、それ以上に重要なのは、皆さん自身が新しい時代にふさわしい経営の形を創造していくことです。

その挑戦に、私は大いなる期待を寄せています。

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